“そんな頃合いですね”
気がつけば、随分と日の入りが早くなった。
ちょっと前までは7時台でも結構明るかったものが、
今では5時を回ればもう暗く、街灯が灯る一角もあるほどで。
有名な繁華街や大きな通りを彩る冬のイルミネーションが始まったの、
ええ?もう?なんて驚いてたけど、
あながち早すぎるってこともないのかななんて思えてしまったほどで。
陽が落ちれば気温もするすると下がり、
早朝の寒さに匹敵するほどに宵もなかなか寒くなったなと思う。
「ほんの少し前はさ、
ちょっと駆け回れば汗かいて、上着なんか要らないって思うほどだったのにね。」
イエスがそう言って思い出したのは、
先月の末に町内会の皆で運んだリンゴ狩りの話だろうと。
言われずともすぐに通じて、ついつい吹き出してしまったブッダであり、
「そうそう。
キミなんて、大汗かいて腕まくりして、夏より暑い〜なんて言ってたよね。」
本当に楽しそうだったよねぇと、
それは微笑ましかったよと、ぱっちりした双眸を弧にたわめ、
柔らかな笑みを口許と頬とに浮かべるものだから。
「…うん。そうだったよね。」
何か妙な抑揚での相槌になっちゃったのは、
不意打ちの慈愛の微笑に直撃されちゃったから。
それでなくとも大好きな人なのに、ああしまった油断したなぁ。
下界でのバカンスを始めて、そんな中でこっそり温めていた思いの丈を告白し合って。
片想いじゃあなくなって、隠す必要がなくなって、
それでも慣れぬことだからか、含羞みながら照れッと笑うキミだったものが。
さすがに落ち着いて来たものか、
天界に居たころのよに、イエスに対しても慈悲深い笑みを取り戻してしまってる。
いやいやいや、それはそれで正しいんだけれどもね。
“照れちゃってしどもどしちゃうキミって、とっても新鮮だったのになぁ…。”
天界でも教祖としても大先輩で、いつも弟扱いだったから、あのね?
もしかしたら生まれて初めてかも知れない、
あったとしたって生前の若かりし頃のという遠い遠い経験、
人への恋慕の情なんていうのへときめくキミなの、
こちらからすればとっても新鮮だったし。
ああ、これに関しては導き支える側でいられるんだって、
こっそりワクワクしていたんだけれど。
「イエス?」
どうしたの?って、綺麗な深瑠璃色の瞳がこちらを覗き込んで来て、
ちょっぴり不安そうなのへ、
「あ、ううん。何でもないよvv」
ああ、いかんいかん。
子供じみたことで拗ねてる場合じゃないと、愛しいキミへ心からの笑みを贈って。
「上着、慌てて引っ張り出したくらいに、今年の寒さは急に来たよね。」
「そうだよねぇ。」
このコートなんて、虫よけのショウノウ臭くて、
愛子ちゃんから “おじいちゃんみたいな匂い〜”って煙たがられちゃったよと、
屈託なく“あはは”と笑ったイエスの横顔へ、
“……あ。//////”
わあ、そんな無邪気に笑うなんて反則だよぅと、
今度は釈迦牟尼様の側が胸元をせわしく感じてしまう。
「? どうしたの?」
「う、ううん。何でもないよ。」
あ、そうそう、今日はジャガイモが安かったから多めに買ったんだ。
コロッケが良い? それともシチューかな?と切り返されて、
「わあ、何 その二択。」
ちょっと待ってよ、どっちも捨てがたいよ、
こんな日はホクホク食べたいベスト5のうちの二つじゃないよ、と。
結構真剣に考え込んじゃうところが他愛ないヨシュア様。
意図せずしてイケメンになってまで思案に暮れるの横目で観つつ、
ああ、注意が逸らせたなぁなんて、ホッと一息ついたブッダとしては、
寒いのはかなわないけど、温かいものへの話題も増すし、
“何と言っても。”
お互いに提げている買い物袋を握った手の甲同士が、
時々触れそうなほど近くなってる距離だけど。
寒いんだもの仕方がないよねと、
誰になんだか言い訳しやすい時節の到来でもあって。
じんと重たい寒さもて、ちょっぴり辛い季節がすぐそこまでやってきていることを、
久方に得た生身の肌身に染みて感じつつ、
それでもだからこその幸いに、今からふふと小さく笑った、
釈迦牟尼様であったのでした。
〜Fine〜 17.11.12
*冷風扇の話から、いきなり冬が来る前にという話です。
すいません、ついつい別のお部屋に集中しております。
性格の荒くたさがほとばしるのが肌に合ってる辺り、
心温まるほのぼのは実は性に合ってなかったのかなと、
ちょっとしょぼくれたくなりもする今日この頃です。とほほ
めーるふぉーむvv


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